今回は夏目漱石が書いた行人について私なりに簡単に、あらすじ、感想、解説をしていきたいと思います。
行人は他人のこころを理解することが出来ない二郎の兄である一郎が、妻、家族から孤立していく様子がえがかれています
「友人」「兄」「帰ってから」「塵労」の全4章で構成されていますが最後の「塵労」では一郎の心を癒す為、友人のHさんが一郎を旅行に誘い、旅行先での一郎の様子を非常に長い手紙を書いて弟である二郎に伝えています。
理解することの出来ない他人の心、そして長い手紙。次作の「こころ」にも通じるものを読んでいて感じる作品です。
まだ読んだことがない人はぜひ手に取って読んでみてください。
行人はこんな人にオススメ
既婚者
行人のポイントテーマ・キーワード・魅力

夫婦
結婚
孤独
他人のこころ
あらすじ
二郎の兄の一郎は気難しい性格で家では書斎に引きこもり、家族内で孤立していた。ある時一郎は最も自分が理解され、理解しなければならない自分の妻である直が何を考えているのか分からない、と二郎に告げる。直を疑う一郎は二郎と嫂の関係まで疑うようになり、嫌気がさした二郎は実家を出て一人暮らしを始める。
実家を出て以来、一郎と顔を合わすことを避けていた二郎だったが友人の三沢、妹のお重から一郎の様子がいよいよ、おかしくなった事を聞き一郎の友人のHさんに一郎と一緒に旅行に行きその様子を手紙で報告してくれないか、と依頼する。Hさんはそこまでする必要はないだろうと、言いながらも、もし報告するべきことが起きたら手紙を書くといって、旅行に行くことを承諾し、旅行にでかけた。
1日、2日と待ったがHさんからの手紙は届かなかったが11日目にHさんから長い手紙が届く。
行人でえがかれている結婚観
行人最大のテーマは兄の孤独だと思います。誰も信じる事が出来ない兄は、妻、家族からも距離を取り一人書斎で引きこもるようになります。
兄が何故孤独になっていったのかを突き詰めて読んでいくと、夫婦関係というが1つのポイントになってくるように思います。
夫婦に着目して行人をみてみると、行人では兄と嫂の夫婦だけでなく、様々な夫婦が登場します
主人公二郎の父と母、一郎(兄)と直(嫂)、佐野とお貞、岡田と兼、三沢の話し出てきた精神がおかしくなった妻とその夫
行人を読むうえで兄と嫂の夫婦関係が大きなポイントになっているので、その他に出てくる夫婦達と比較すると色々な解釈ができてより行人を楽しめるかもしれません。
それぞれの夫婦を簡単に書くと
【岡田夫婦】
子供はいないながらも、仲良くやっている。
【佐野夫婦】
岡田が仲人となり二郎の家で下女をしているお貞が、佐野と結婚することになるが、お貞は佐野と実際に会ったことはないにも関わらず、佐野と一緒になり幸せになるに違いないという楽観的な思想で結婚生活を夢見ている
【一郎と直】
一郎は学者肌で気難しく気分屋で実の母も気を使うほど、難しい人物。一方直はというと非常に淡白な性格をしており夫の一郎は妻が何を考え自分をどう思っているのか理解できず煩悶し、孤立していく。妻の直は夫が苦しんでいるのを理解しながらも自分が何をしていいのか分からないまま、2人の間で会話がなくなり大きな溝が広がっている
【三沢が紹介した夫婦】
夫が放蕩家で家に中々帰宅せず結婚後すぐに離婚し、精神がおかしくなった妻はその後三沢家に引き取られ、三沢が外出するたびに、早く帰ってきてくださいね、という言葉をかけるようになります。
このように行人では色々な夫婦が出てきます。
この中で一番順調で幸せそうな岡田夫婦ですら、結婚して5.6年経っているのにも関わらず、子供が出来ず岡田は子供が欲しいと二郎に話していますが、一方お兼はというとむしろ子供はいらないと二郎に話をしています。
どの夫、どの妻も一人一人の性格が異なるので、それらを組み合わせてなる夫婦という社会は複雑で簡単ではありません。
私が印象に残った場面として
主人公の二郎が母親にお貞さんの結婚相手になるかもしれない佐野という人物を見てこい、といわれ大阪へ行き佐野に会っては見たものの、1,2回会いそこで数時間話した所で、その人の本質は分かるわけもありません。
しかし母に何かしらの報告はしなければなりませんので、母に佐野は他の妻帯者と変わった所もないので承諾しても問題ないでしょう、とどこか無責任な手紙を書きます
二郎はそのような手紙を書きながらも、こんな簡単に結婚という人生において重要な選択が決まっていく様子に、自分に関する結婚話もこのように簡単に決まっていくのではないかと不安に感じています
夏目漱石が仲人となった際、新郎新婦の初顔合わせの際に「鬼が出るか蛇が出るか」と言ったそうですが、結婚生活というのは今後の人生における重要な要素をきめるものにも関わらず、あっさりと決まり、そしてそれが上手く行くかどうかは実際に結婚して生活を始めるまで予想のつかないものなのかもしれません。
一郎の孤独
一郎はなぜそんな苦しむほどの相手と結婚したのでしょう。
一郎の台詞で「君は結婚前の女と、結婚後の女と同じ女だと思っているのか」という言葉があります
行人は二郎を主人公とし二郎視点でえがかれているので、妻の直が結婚後どのように変化していったのかは分かりませんが、直が変化していった結果、一郎は直が何を考えているのか分からなくなり、直に自分は愛されているのか分からなくなり、妻を試すため二郎と直二人だけで宿に泊まるように二郎にお願いしたり、あまりにも淡白な直を打擲しその反応をみたりするようになります。
一郎は直と二郎の関係を疑うようになりますが、「こころ」で出てきた三角関係のようではないのも行人のポイントかもしれません。
直の性格上塞ぎ込んでいる一郎に温かい言葉をかけることはせず、二人の関係はますます悪化していきます
Hさんとの旅行ではHさんは一郎を慰める為に色々と言葉をかけますが、一郎のすさんだ心には響きません。一郎は頭ではもっと気楽に、楽しく、幸福に生きるべきだと分かっていますが、自分の思考をそのように変えることが出来ないのです。
夏目漱石の作品では近代化による急激な世界の変化や、複雑な人間関係により孤独に陥っている人物が多いですが、一郎もまさしくその1人だと思います。
行人はHさんの長い手紙で物語を終えます。
その物語の最後でもあるHさんの手紙の最後では
「私はこうして一所にいる間、出来るだけ兄さんの為にこの雲を払おうとしています。貴方方も兄さんから暖かな光を望む前に、まず兄さんの頭を取り巻いている雲を散らして上げたら可いでしょう」
このような言葉が綴られています。
直がもし一郎の雲を取り除ける努力やその姿勢があれば、一郎があのような不器用なやり方で直の愛情を確かめる事はしなかったかもしれません
最後に
今回は夏目漱石が書いた行人について私なりにですが、簡単に、あらすじ、感想、解説をさせて頂きました
この本を読み一郎に対し
「もっと楽しく生きればいいのに」と思えたなら貴方はお貞さんやHさんのように幸せな人だと思います。
一郎も「自分はお貞さんのようになりたい」と言っていますが、そのように生きたくても生きられず苦しみながら孤独に生きている一郎。世界に真面目に誠実に生きていけばいくほど苦しんでいく一郎がえがかれています。
年をとると徐々に一郎に共感できる箇所が多くなり、ますます興味深くなる作品だと思います。
ぜひ手にとって読んで見て下さい
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