はじめに
今回は芥川龍之介の書いた「庭」について書きたいと思います。
物語に派手さはなく、あまり有名ではない作品かもしれませんが、中村家という旧家の庭の荒廃をえがく事で、中村家が衰退していく様をより際立たせて表現しているこの作品は、短い作品でありながら読者の心を打つ文章が数多くある作品だと思います。
短い作品なので是非手にとって読んでみてください
「庭」のテーマ、魅力、キーワード
・時の流れ
・思い出、記憶
「庭」はこういう人にオススメ
深い短編作品を探している人
あらすじ
旧家である中村家の庭は維新後から徐々に荒廃し始める。庭が荒廃していくと、それに呼応するかのように旧家の当主が亡くなり、その後継いだ長男も若くして肺病で亡くなる。長男の後は三男が家を継いだが、益々庭は荒廃しはじめる。
その後駆け落ちした次男が家に戻り、三男の息子である廉一と共に荒廃した庭を再建するために鍬を手にとるが、次男は元々病弱なうえ激しい労働により身体が悪化し最後は病に倒れる。
その後益々荒廃した庭は昔の面影は無くなり、中村家では三男の事業が失敗し大阪に引っ越し、屋敷も売りに出されて庭は取り壊され跡地には停車場が出来た。
衰退
ただ一家の衰退を表現するのであれば、そこに住む人に焦点を当て、その人達の会話や生活の様子を描くと思います。
しかし「庭」ではあえて中村家の庭に焦点をあて、庭の荒廃を描く事で、逆に中村家が衰退していく様子がより一層際立って描かれています。
また庭が荒廃していく様は自然の恐ろしさと時間が過ぎ去る事の恐ろしさも感じられます。
名高い庭師によって作られ優美な趣むきのあった庭は、時代が過ぎ去り家の人間が関心を寄せなくなった結果、自然の力によって人工的な自然ではなくなり、自然が持つ力によって徐々に人工物としての自然ではなくなります。
江戸時代から栄えた旧家も時代の流れには逆らえず、維新後徐々に力を失い最後は屋敷さへ手放す事になります。
庭という作品は庭の荒廃に焦点をあてて描かれていますが、そこから様々な事が読み解ける作品だと思います。
次男と庭の再建
次男は元々穀屋へ養子として出されて、そこで放蕩した結果病弱になり、最後にはそこのお金を持ち去り酌婦と一緒に駆け落ちしてしまいます。
その後実家に戻って来た次男は最初何をする事もなく過ごしていましたが、ある時母親が昔に流行った歌を歌っているのを聞き、自分が幼少の頃の、家も庭も華やかだった時代を思い出し、死ぬまでにもう一度その風景を見ようと庭の再建に動き出します。
しかし、周りの家族は手伝う事はおろか次男に対し非難の目をむけます。
そんな中唯一三男の息子である廉一が、次男の仕事を手伝わせてくれ、と声をかけると、次男は晴れ晴れとした微笑を浮かべ答えます。
次男の再建作業は10年にもわたり、2人はその間家族の非難と自然の猛威に耐えながら汗を流します。
激しい労働の末、志半ばで病床に倒れた次男でしたが彼は満足していました。10年という長い歳月は彼に諦めを教え、諦めは彼を救ったのです。
養子に出され養家のお金を持ち出し酌婦と駆け落ちした次男の人生は決して人様に褒められるものでは無かったかもしれません。
ただ昔を取り戻そうとした庭の再建のみは彼が胸をはって尽力したと言える事だったかもしれません。
次男は満足した表情で笑いながらこの世を去ります。
廉一の思い出
庭の最後の場面では、次男と共に庭の再建を手伝った廉一が油絵を描いている場面で終わります。
屋敷もなくなった廉一は洋画研究所で油絵を描いており、そこは庭とはなんの繋がりも無い所ですが、廉一は時々一緒に庭で汗を流した叔父である次男の顔を思い出します。
廉一にとって周りから良いと思われなくても、叔父と共に庭で汗を流した思い出というのは彼の中で強い思い出となっていました。
そして物語の最後の1文は
「三男の噂は誰も聞かない」
という皮肉じみた言葉で締められています。
次男と廉一の絆を描く一方で、投機的で情に薄い三男は結果的に事業に失敗し、周りから忘れられている、という芥川龍之介の皮肉が感じられます。
最後に
今回は芥川龍之介の庭について簡単にあらすじ、感想、解説を書いてみました。
短い作品で物語に派手さはありませんが、非常に奥が深い短編小説だと思います。
物語の雰囲気は明るくはないですが、最後の廉一の場面ではどこか心が爽やかで暖かい気持ちになる作品です
是非手にとって読んでみてください
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