はじめに
今回は川端康成が書いた山の音、について私なりに、あらすじ、感想、解説をしていきたいと思います。
山の音は、まだGHQの占領下にあった日本を舞台にしており、人々の心の中には戦争という暗い影が残っており、作中では戦争が大きな要素になっています。
そのような時代背景の中で主人公は60歳を超えた信吾を主人公とし、間もなく訪れる死と共に、まだ諦められない理想の女性像、戦争により心が壊れている信吾の家族達が描かれています。
文庫本で300ページを超える作品ですが、
川端康成の作品でも非常に評価が高い作品であり、個人的にも川端作品で何回も読みなおしている作品です。
ぜひ手に取ってよんでみてください。
山の音のポイントテーマ・キーワード・魅力

・戦争
・老いと死
・理想の女性像
あらすじ
年齢が60歳を超えている信吾は、ある時家の裏山から死期を告げられているような山の音を聞く、死におびえながら、戦争により心が破損し浮気をしている息子の修一、夫が覚せい剤に手をだし、実家に戻って来た娘の房子とその子供達。
暗い生活の中に信吾は修一の嫁である菊子に、昔自分がずっと恋焦がれていた、保子の姉を投影する。
保子の姉が大事に育てていた紅葉が忘れられない信吾は家族に今度紅葉を見に行こうと皆をさそう。
山の音はこんな人にオススメ
・50歳を超えている人
・終活について考えている人
山の音の魅力
この作品は主人公である信吾は死期を予感するような山の音を聞いてはじまります。物忘れが激しくなり、友人の訃報が多くなり信吾自身も老いを感じる事が多くなっています。
家族環境も浮気する修一、夫との関係が上手く行かず出戻りする房子、決して順調とは言えない状況で、時世も戦後すぐであり決して安心と平和で満たされているような状況ではないかとおもいます。
当然内容も明るい物語ではなく、どこか暗い場面が終始続いています。
しかし私はこの本を読んで私が一番に感じるのは文章の静かさ、でした。
川端康成の描写により暗いはずの信吾の人生が静謐で淡々と描かれています。
文章から静かさを感じるからこそ、冒頭の死期を予感させる山の音、信吾が菊子に自由であるべきだと、言う重要な場面に鳩が飛び、空から音を響かせることでそのシーンがとても読者に印象強く残ります。
あくまで私の解釈なので、実際に読んでみて文章の静かさを感じない人がいるかもしれませんが、タイトルが「山の音」ですので山の音を読む上で“音”を重要視しながら読むのも楽しいのではないでしょうか
戦争が人間の心に与える影響
作中では満年齢の描写があるので1950年頃が舞台となっていると考えられますが、この時代まだ日本はGHQの占領下にあり、人々の心の中にはまだ戦争という文字が大きくのこっております。
冒頭でも述べた通り山の音では戦争というのが非常に大きな要素となっています。
登場人物の多くが戦争によりどこか心が破損してしまっている印象を受けました。
浮気する修一、修一の子供を産もうとする戦争未亡人の絹子、覚せい剤に手をだし自殺をはかる相原。浮気している修一の子を産みたくないと堕胎を選択する菊子。
戦争の恐ろしさを私達は学校教育で学びますが、山の音では
戦争が終わり、人々が家庭に戻った時の戦争の恐ろしさが描かれていると思います。
菊子を可愛がっている信吾は修一の浮気に憤りを感じます。そして、絹子が子を産もうとしている事実を知り、信吾は修一を問い詰めますが、修一は、命を失う戦争の過酷さに比べたら、そのようなものは気にするようなことではない。と言います。信吾は戦争が終った平和の時代で関係ないだろ、と返しますが修一は「今も新しい戦争が僕らを追っかけているかもしれないし、僕らのなかの前の戦争が、亡霊のように僕らを追っかけているかもしれないんです」とかえします。
菊子という妻がいながら浮気をする修一の行動と、この言葉は
戦争が終わり心を破損した人が家庭に戻った際に家庭にどのような暗い影響を与えてしまうのか、というのが表現されているかと思います。
また、修一同様に戦争により夫を亡くした絹子も、周りが菊子に悪いから修一と別れるように促すと夫が戦争によりかえってこない私に比べれば、たとえ外に別の女を作ったとしても夫が帰ってくるのなら菊子はまだマシであると述べています。
戦時中は当然恐ろしいものですが、戦争はその後にも人間に大きな影響を与え暗い影を残し続けるのものだと、山の音を読むと感じます。
永遠の女性像
作中で信吾は美しかった保子の姉を何度も思い返します。
保子の姉は嫁いだあと若くして亡くなってしまうのですが、その後信吾はその妹である保子と結婚し自身の子供、そして孫にまで保子の姉の美しさを求めているような描写があります。
病的とまで言える信吾の非常に強い保子の姉にたいする固執ですが、残念ながら、房子もその孫たちも決して容姿が優れておらず、信吾は修一の嫁である菊子に保子の姉を投影させ、菊子を可愛がります。
菊子に投影するあまり、生前、紅葉と一緒にうつる保子の姉が忘れられない信吾は菊子と紅葉を一緒に見たいがために紅葉を見に行こうと家族を誘います。
10代、20代なら分かりますが人生の大部分を終え、孫までいる男性が若い頃自分が恋をした女性をいまだ追い続けている、というのは中々理解できないものですが、男性というのは何歳になっても心の中に理想の女性像がありそれを追い続けるのかもしれませんが、女性からは中々理解するのが難しい心情かもしれません。
信吾から保子の姉に投影され、この作品の第2の主人公とも言っても良い菊子ですが、おしとやかで、浮気して帰ってこない修一に対してキツクあたる様子も描かれていません。
良く働き、毎日信吾の為にお茶を準備し健気でとても魅力的な女性と描かれています。
暗い登場人物、暗い物語ゆえにこの菊子がより映える印象を受けます。
しかし、菊子も決して何もかも言いなりというのではなく修一の子供を堕胎させる選択を取ります。
菊子は確かに素直で思いやりがあり優しい女性という印象ですが、
物語終盤では房子の水商売を手伝います、と言う場面もあり以外にも自分の意思を強くもっているような場面をみられます。
保子が堕胎を選択した菊子に対し「今の人はなんて恐ろしい」という言葉もある通り、昔の女性である保子とは異なり新しい女性である菊子は、意外と力強くたくましい印象を抱きます
最後に
今回は川端康成の書いた山の音について、について私なりに、あらすじ、感想、解説をしてみました
山の音は60歳を超えた信吾を主人公としているので年を重ねるたびに信吾に共感できる場面が増えていくので読みかえすたびに好きになれる作品なのではないかと思います。
若い人が読んでも面白くないかもしれませんが、川端康成が戦後すぐの日本家庭を描いた素晴らしい作品だと思いますので、ぜひ手に取ってよんでみてください
コメント