はじめに
今回は芥川龍之介の蜜柑について、私なりにあらすじ、感想、そして解説をしていきたいと思います。
芥川龍之介の短編作品は「羅生門」、「地獄変」など暗い話がある一方で、「鼻」「虱」「あばばばば」のような明るい作品があります。
今回紹介する蜜柑は後者に分類され日常の中の素朴な美しさが描かれています。
私は人生に嫌気がさしたとき、人生が上手くいかないとき、この本を読んで何度も救われてきました。人生とは退屈で面白くないかもしれませんが、まわりに溢れている素朴で小さな美しさを見つけることこそが人生において大切だと教えてくれる大好きな作品です。
文章も平易で、芥川作品の中でも特に読みやすい部類に入ります。
今回はそんな蜜柑についてあらすじ、感想、解説を交えてご紹介したいと思います。
芥川龍之介にあまり馴染みのない方にも、ぜひ一度手に取って読んでほしい一冊です。
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蜜柑のポイントテーマ・魅力

・色彩
・人生の素朴な美しさ
「蜜柑」はこんな人におすすめ
・本を読み始めようとしている人 ・人生が退屈だと感じる人
「蜜柑」のあらすじ
曇った冬の日暮れにある男が電車を待っていると、その日はプラットフォームには他の客も見当たらず、時々檻に入れられた子犬が悲しそう吠えている。その寂しい光景を見ながら男の頭の中には、いいようのない疲労と倦怠が広がっていた。
やがて発車の笛が鳴ると車掌に注意されながら、垢じみた服装を着ていかにも貧祖な田舎娘が駆け込み乗車をして男と同じ車両に乗り込んできた。
男はこの娘の下品な顔立ち、不潔な服装、そして三等切符を持って二等車両に乗り込んできている頭の悪さに腹がたった。
男は娘の存在を忘れる為に夕刊を手に取りページをめくると、記事の中身は汚職事件、死亡広告がばかりがならんでいる。目の前の娘、この夕刊を見て男は、まさしくこれが不可解で下等で退屈な人生の象徴であると感じ、何もかもが下らなくなり、夕刊を読むのをやめて眠る事にした。
男がふと目を覚ますと向かいに座っていた娘が何故か隣に移動しており、電車がトンネルに入ろうとしているのにも関わらず窓を開けた。
車内にはどす黒い空気が充満し男はいよいよ腹がたち、娘に注意しようかと思った矢先に車両はトンネルを抜ける。
トンネルを抜けると踏切りの柵のむこうに小さい3人の男の子がいたいけな声で何か叫んでおり、娘はその瞬間窓から手を伸ばし男の子の声にこたえ、電車を見送る男の子にむかって蜜柑を落とした。
その時男はこれから奉公先に行く娘がわざわざ踏切まで見送りに来た弟たちを労うため蜜柑を渡すために窓を開けた事を理解した。
男はこの時いいようのない疲労と倦怠と、そうして不可解な、下等な、退屈な人生をわずかに忘れることができた。
作品中の色
この作品読んでいくと不思議と色彩に注意を持っていかれます。前半部分を読むと
「曇った冬」「雪曇りの空」「どす黒い」というような単語が続き、明るい色を想像させる描写は出てこないので、読んでいると白黒の世界を想像してしまいます。
これらの文字からは男の心情と同じような、暗くて、楽しくない様子が連想されるので読者は男の心情に引っ張られ、この人生の退屈さに共感してしまいます。
しかし、トンネルを抜け娘が蜜柑を落とす場面でこの作品で初めて明るい色彩を想像させる文字が出てきます。
「たちまち心を躍らすばかり暖な日の色に染まっている蜜柑がおおよそ五つ六つ、汽車を見送った子供たちの上へばらばらと空から降って来た」
どんよりとした物語、世界観がこの蜜柑によって一気に一蹴され、白黒だった世界に鮮やかな色が入ってきます。
トンネルを抜ける前は脳内で白黒映像を思い浮かべながら読んでいたのが、抜けた途端に色彩豊かな世界が広がりそうます。
世界観・物語を色彩でもって大きく展開していくので読んでいるとこの色に強くひきつけられます
人生の美しさ
男は最初娘にたいして貧祖で不潔なイメージを抱いていましたが、自分を見送りにきた弟たちへの労いの為に鮮やかな蜜柑をプレゼントしたことが分かると、娘が急に別人に見えてきます。
そして、いいようのない疲労と倦怠と、そうして不可解な、下等な、退屈な人生をわずかに忘れることができたのです。
生きていれば「いようのない疲労と倦怠と、そうして不可解な、下等な、退屈な人生」を感じない人はいないと思います。どんなに恵まれている人でも感じてしまう時期はあるかと思います。
この作品の素晴らしい所は、見送りに来た家族に対し感謝を伝えた、というそこまで珍しいものでもないが、その様子をみた第三者の誰かの心を救っているという点です。
娘の家は決して裕福ではありません。三等切符ですし、出稼ぎにいかないと家族を養えない身分です。そのため弟たちに渡せたものも蜜柑です。
決して派手さはないし、特別なことは何もないけれど、ささやかな人間の温かい営みで
誰しもが感じる「いようのない疲労と倦怠と、そうして不可解な、下等な、退屈な人生」を忘れることが出来るのです。
そこに私は人生の美しさを感じます。
最後に
今回は芥川龍之介の蜜柑について私なりに、あらすじ、感想、そして解説をしてみました。
特に理由もないけどなんか人生が楽しくない、という人間誰しも感じた事がある感情の特効薬は人間の何気ない温かな営みかもしれません。
この蜜柑はそんな人間の温かい営みと人生の素朴な美しさを描いた作品だと思います。
だれが読んでも朗らかな気持ちにさせてくれる作品だと思いますのでぜひ手に取って読んでみてください。




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