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「それから」~[感想][解説][あらすじ]:夏目漱石

読書

はじめに

日本を代表する文豪、夏目漱石。

彼がこの世を去り100年以上たちますが、彼が残した作品は現代においても、いまだに愛され続けており、今日を生きる私達に手助けとなるヒントを与えてくれます。


今回はそんな彼の作品のなかでも「それから」について私🍏なりに、あらすじ、感想、そして解説をしていきたいと思います。

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「それから」について


「それから」は三四郎・それから・門、所謂前期三部作と言われる作品の2作目にあたります。
話の内容は高等遊民である代助が友人である平岡の奥さんで、元恋人である三千代を奪う略奪愛を書いています。


現代でも不倫・浮気などを行えば社会的信用、立場を失うことになりかねませんが、現代よりもさらに男女のルールが厳しい明治の世において略奪愛というテーマを題材にしているのも「それから」を読むうえでのポイントの1つだと思います。

高等遊民・三角関係という非常に漱石らしい作品ですが単純に略奪愛のみをかいているだけではありません。

お金・労働について

作品を通して何度も「お金」「労働」について登場人物が話をしている場面が出てきます。

漱石作品を読む上で大前提として理解して頂きたいのは明治という複雑な時代背景です。

今まで封建制で藩のため、君主のため、家族のため自分の一生を費やすのが当然であった日本人が
西洋からの文明が流れてきた為に、制度も、価値観も変わり利己主義へと変わっていく明治。そこで繰り広げられる人間模様はさぞ複雑だったに違いありません。


明治以前での日本では武士道という教えがあり自身の損得勘定を度外視し、組織の為に自己犠牲を払うことが徳とされていました。

作品のなかでは先の会社で他人の失敗と借金を背負わされた平岡は作品中で働くという事にたいしてこう言っています。

「僕は僕の意思を現実社会に働きかけて、その現実社会が、僕の意思の為に、幾分でも、僕の思い通りなったと云う確証を握らなくっちゃ、
生きていられないね。そこに僕と云うものの存在の価値を認めるんだ。」

組織の為に身を費やす武士道と利己主義的な資本主義が混ざると平岡のような苦労を背負ってしまう人間を生むのかもしれません。

対して代助の考えがよく表れている一文を紹介します。


「もしポテトがダイヤモンドより大切になったら人間はもうだめであると代助は平生から考えていた」


労働のための労働は悪である、という代助の考えは非常に高等遊民で、社会にでておらず、お金にも困ってない坊ちゃんらしい考えです。

社会人なら「何故自分は働いているのだろう」1度は考えたことが有るんじゃないんでしょうか。
働き方改革が進み代助のような考え方を主張する人も多く出てきている中でもう一度自分の労働感、「何故自分は働いてるのだろうか?」という疑問を「それから」を読み考え直す時間を設けてみるのも良いのではないのでしょうか

決断

物語が終盤となるにつれ三千代への思いが強くなっていき代助はついにそれを行動へと変えていきます。

「自然の児になろうか、意思の人になろうか」


それからを代表する名文です。社会制度のもとでは他人の奥さんである三千代を奪うというのは罪であることだが自分の自然の気持ちは三千代と一緒にいたいという、代助の気持ちが表現されています。また自然の”児”と意思の”人”という表現の分け方も非常に漱石らしく読み直す度に唸ってしまう名文です。

臆病で無駄なリスクは負わない、他人と意見が違っても自分の意思は主張せず争いを避ける、という代助の処世術からしたら三千代への気持ちを実行に移すというのはあまりにも逆行する行動になります。

仮に三千代を奪った場合家族からも縁を切られ今まで高等遊民として生きていく事が出来た経済的援助も無くなり、パンの為に労働をしないといけない立場になります。それは自分で否定してきた事です。

実家からは嫁をはやくとれと再三縁談の紹介をうけますが断ってしまいます。もし受ければ彼は自分の生き方を曲げず、最後まで高等遊民として生活を行うことが出来ますが、三千代の気持ちがある為に何度も断っています。

彼は自分の優れた頭の中で「自分の生き方」と「三千代への思い」のなかで葛藤しながら悩みます。


そしてついに彼は平岡へ三千代をくれと告白をします。

衝撃の告白の後平岡は昔を回想しまだ結婚する前、自分の三千代への気持ちを代助に打ち明けた後、代助が自分の為に泣いてくれた事を思い出します。

当時の代助は自分の未来を犠牲にし、自分の自然な気持ちを軽視した結果、愛する人を他人へ周旋してしまったのです。かつては平岡の為に笑い、平岡の為に泣ける代助も西洋という文明により、かつての友人である平岡との溝が深まり、最後は絶交の最後を迎えてしまいます。

ここでの代助への決断が倫理的どうであるか、社会制度のもとではどうなのか、というのは私🍏はあまり重要視していません。

もちろん「それから」のテーマとして社会制度のもとでは悪である行動を、自然な気持ちとして貫き通す時は人間は何を思いどのように考えるのかというのも非常に興味深いテーマですが、私🍏が重要視しているのは自分の今までの生き方を全て投げ打ち、甘ちゃんで社会について何も知らないあるお坊ちゃんで臆病な代助が、自分の未来が茨の道に代わってしまうという大きなリスクを背負ってしまうのにもかかわらず決断したという点です。

1人の人間が多大なるリスクを負いそれでも決断をする。周りの社会がそれをどう見ようと、裁判所で裁かれようとそこにある熱い血潮の通った人間の自然な気持ち、私🍏は「それから」を読み直す度にこの決断の物語に心がゆれます。

さいごに

今回は日本を代表する文豪、夏目漱石の「それから」について私🍏なりに、あらすじ、感想、そして解説をしてみました。


労働とお金・明治という複雑な時代背景・代助の決断と人を愛するという事・人の自然の気持ちと社会制度。取り上げたら色々な読み方、感じ方が出来る正に名著です。学校の授業で「こころ」しか読んだことがないという方は是非一度手に取ってみてください。

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